健康コラム
第30回 「高齢者の不眠」(2017年1月)
冷え込みの厳しい季節になりました。それとともにご高齢の方から不眠の相談を受けることが増えてきました。ご高齢の方がこの時期の不眠でとくに気をつけたい生活習慣についてご紹介いたします。
まずは睡眠サイクルについて。まず高齢者は若年者より睡眠時間が短い、深い睡眠が短い、運動量が少ないから必要とされる睡眠量も少ないといったことが大前提にあります。
そして冬になると日没が早いこともありやることがない、寒いと早くから床に入るようになり、寝つきが悪くなります。寝つきの悪さが慢性化すると入眠に対するこだわりや不安が強くなります。入眠できたとしても長く床に就いていることで睡眠が途切れ途切れになります。
冬は日の出が遅く早起きしても暗いので、入浴も入床も少し遅めでいいでしょうし、眠気がこなければ一旦床を離れるのもいいでしょう。日の出前の暗い時間帯から電気をつけて活動することでリズムが崩れ、夕方明るいうちから眠気が来てしまうようになったら、朝早くから日光を浴びない、夕方は部屋を明るくするといった通常と逆の対応をして睡眠サイクルを後ろにずらすことが必要になることもあります。
次に寝床での過ごし方について。まずカフェインを含むお茶やコーヒーは入眠を阻害しますし寝酒は深い眠りを減らしますので絶対にやめましょう。
他にも本を読む、テレビを見る、ラジオを聴くなどされる方も多いと思います。それで眠気が来るという方には直接光が目に入らないようにする、オフタイマーを使うといった指示をすることもあります。
しかし、これが習慣化すると床に入ると目が冴えるといった逆の条件付けができてしまうことがあります。そういった場合には寝床は眠る場所と決めて、眠くなったら床に就くという習慣づけが必要になります。
最後に昼寝について。不眠が慢性化すると夜間の睡眠の質が悪くなり、昼間の眠気につながります。とくにこの時期昼間室内が暖かいことで眠気が助長されます。入眠へのこだわりが強くなると寝床に入ると目が冴えてリビングだと、こたつだとリラックスして眠れるなどやはり逆の条件付けができてしまうこともありますが、昼は寝床で昼寝、夜はテレビを見ながらリビングやこたつで寝るといったことがあってはいけません。
まず昼寝は午後早い時間帯に30分以内という大原則はありますが、昼寝はしないに越したことはありませんし、リビングは常時明るくする、眠いときは空気を入れ替える、日中はこたつを使わないなど思い切った習慣づけも必要です。
以上、この時期の不眠で気をつけたい生活習慣に絞ってご紹介しました。もちろん激しいいびきや無呼吸、叫ぶような寝言や激しい体動、足のぴくつきやむずむず感等の身体症状がある、生活習慣の見直しで不眠が改善しないといったことでお悩みの方は、はやめにかかりつけ医にご相談ください。
野﨑裕介(たてばやし診療クリニック)
第29回 「健康寿命を延ばそう!!」(2016年12月)
日本人の平均寿命はどんどん延びています。2015年の平均寿命は、男性が80.79歳、女性が87.05歳となりました。
健康寿命は介護が必要だったり、日常生活に支障が出る病気にかかったりする期間を除き、自立して過ごせる期間を示しますが、日本は2013年に男性が71.11歳、女性が75.56歳で、男女とも世界1位でした。とは言え平均寿命と健康寿命には差があり、全員が健康な老後を過ごしていないことを表しています。
この差を埋めるためにはどうしたら良いのか?介護が必要になる原因は脳卒中、認知症、高齢による衰弱、骨折・転倒、関節疾患の順です。病気にならないために普段の生活習慣を整え予防することが大事です。
私は生活習慣には主に5つの要素があると考えています。食事、運動、睡眠、タバコ、アルコールです。それぞれについて簡単にお話します。
食事はバランスが必要です。炭水化物(糖分)、たんぱく質(肉、魚、大豆)、脂肪は3大栄養素でどれも大事です。食物繊維とビタミンは健康を維持するために必要となります。
塩分の摂りすぎにも注意が必要です。私は食事指導するときに腹8分目の指導はしません。腹9~10分目です。食べ過ぎなければ良いのです。仮に食べ過ぎても次の食事でバランスを取る(少なくする)ように指導します。過度の制限は体調不良やリバウンドを起こしてしまいます。食欲に勝る欲はないのです。
運動は生活習慣病だけでなく、癌や認知症の予防効果があります。運動は緩く行うのがこつです。1日10分でも歩くようにしましょう。10分のゆっくりした散歩は体重の半分のカロリーを消費します。体重60㎏の人は約30kcalぐらいです。1ヶ月で900kcal、1年で10800kcalとなります。脂肪1㎏は7000kcalぐらいなので10800/7000で約1.5㎏脂肪燃焼をするのです。雨の日、暑すぎる日は体調を崩す可能性があるのでしなくてよいのです。緩く継続することが必要です。
睡眠は生命の維持に必要です。脳と体の疲労回復、ストレスの解消、体の成長や老化の防止、病気の予防につながります。加齢とともに不眠症になる人が増えます。私も少し不眠の気があります。特に不安などのストレスが溜まったときになります。なるべくストレスを発散し(私の場合はランニングです)良眠を得られるようにしています。
タバコを吸う医師はいますが、勧める医師はいないと思います。タバコには4000種類以上の化学物質が含まれ、60種類以上の発がん物質があるそうです。癌のリスクだけではなく、様々な病気の原因となります。特に慢性閉塞性肺障害(=肺気腫、慢性気管支炎)が心配です。肺が炎症により破壊される病気です。90%がタバコを吸っている人です。世界の死亡原因の第4位です。
重症になると在宅酸素療法が必要になり座ることも出来なくなる怖い病気です。禁煙出来ない方はせめて減らす努力が必要と考えます。
酒は百薬の長とも言いますが、飲み過ぎはよくありません。私もかなり好きなので注意しています。適量(おおよそ日本酒換算で1合未満の場合)はリラックス効果や心筋梗塞を予防するデータがあります。過度の飲酒になると逆の作用となります。個人により適量が違うので注意が必要です。
生活習慣を整え健康寿命を延ばしましょう!!
新出 理(館林記念病院)
第28回 「糖尿病と認知症」(2016年11月)
糖尿病の三大合併症はといえば、網膜症・腎症・神経障害ですが、最近は『認知症』も注目されています。高齢者の糖尿病患者さんでは、糖尿病でない方に比べ2~4倍、認知症の発症リスクが高いことがわかっています。
アルツハイマー型認知症の原因の一つにアミロイドβ蛋白がありますが、糖尿病になるとアミロイドβ蛋白が分解されにくくなり、脳内に溜まりやすくなります。
また、糖尿病の患者さんは、脳虚血も合併しやすくなり、脳血管性認知症にもなりやすいのです。
脳はどの臓器よりも多くのエネルギーを消費するにもかかわらず、脳の神経細胞のエネルギー源のほとんどはブドウ糖です。そのため、脳神経細胞は常にブドウ糖を取り込まなければなりませんが、そのときに必要な働きをするのがインスリンです。
アルツハイマー型認知症患者の脳内は、インスリンが低下し、神経細胞がうまくブドウ糖を取り込めない状態にもなっています。
糖尿病による認知症にならないためには、食事療法・運動療法が重要です。
運動療法は、少ないインスリンで血糖値が良く下がるようにインスリン抵抗性を改善して、インスリンを節約できます。
それでもコントロール不良なときは、薬物療法が必要ですが、薬物治療には、血糖値が下がりすぎる「低血糖」が起こるリスクがあります。
重症の低血糖は脳の神経細胞にダメージを与え、重症低血糖の経験のある人はないひとに比べて、認知症の発症リスクが約2倍になるという報告もあります。
高血糖とともに低血糖も防がなければなりません。
最近では、低血糖を起こしにくい薬も使用できるようになりました。
最後に、アルツハイマー型認知症の原因になるアミロイドβ蛋白は、発症の25年も前から溜まりだすとういデータがあります。したがって、若いころから、糖尿病にならないように生活習慣に注意し、なってしまった人は食事療法、運動療法、薬物療法により治療が必要なのです。
川島利彦(川島脳神経外科医院)
第27回 「乳がんの危険因子と予防について」(2016年10月)
毎年10月は「乳がん月間(ピンクリボン月間)」です。
日本人女性が乳がんになる割合は年々上昇しており、最新のデータでは11~12人に1人まで増えております。では、乳がんを予防する方法はあるのでしょうか?
日本人女性の乳がんの発生率が上昇した原因としては、食生活を含めたライフスタイルの変化が指摘されております。そこで、乳がんの危険因子(悪い影響を及ぼすもの)を挙げてみます。
まず、生活習慣によるものとして、閉経後の女性の肥満、飲酒、喫煙などがあります。肥満は閉経前では逆にリスク(危険性)が低くなることがほぼ確実とされていますが、その理由はわかっておりません。ただし、閉経前でも肥満はさまざまな生活習慣病を引き起こすので、太りすぎないように気をつけるべきであることはいうまでもありません。
次に、初経年齢が早い、閉経が遅い、初産年齢が高い、出産や授乳経験が少ない、なども乳がんの危険因子ですが、これらは女性ホルモンの影響によるものです。ただ、これらは自分でどうにかするのは難しいですね。
その他、糖尿病がある人は乳がん発症リスクが高くなり、ホルモン補充療法(エストロゲンとプロゲスチンの併用の場合)もわずかにリスクは高くなります。血縁関係のある人に乳がんの発症者がいる場合も注意が必要です。その中で、遺伝性乳がん(特定の遺伝子に異常があって発症する乳がん)は乳がん全体の5~10%にすぎません。
さて、それでは乳がんを予防する何かいい方法はあるでしょうか?
これまでの研究結果から、大豆食品やイソフラボンの摂取で乳がん発症リスクが低くなる可能性があります。ただし、イソフラボンをサプリメントとして摂取することでリスクが低くなることは証明されておらず、安全性も証明されておりません。通常の大豆食品から取るよう心がけましょう。その他の健康食品やサプリメントもお勧めできません。乳製品に関してもどのような乳製品をどの程度摂取すればリスクが低下するか結論が出ていません。その他の食べ物も乳がんリスクとの関係についてはわかっていません。
そうすると、乳がんの予防としては、バランスのよい食事で太りすぎないようにする、お酒はほどほどに、喫煙は控える、適度な運動を習慣にするということでしょうか?
これは乳がんの予防に限らない、健康のために心がける一般的なことで、結局はこれらにつきるということです。
予防医学の観点からは、乳がんになったとしても早期に見つけることも重要な予防法(二次予防)です。早期に発見し治療することで、命を守ることができるからです。
月1回程度の自己検診とマンモグラフィを含めた乳がん検診が乳がんの早期発見には有効です。
最近、タレントさんが乳がんを発症したことが話題となり、乳がん検診を受ける人も増えてきました。とても良いことだと思いますが、これを一時的なブームにせず、定期的な検診を習慣にすることが重要です。
堀井吉雄(堀井乳腺外科クリニック)
第26回 「ロコモティブシンドロームとサルコペニア」 (2016年9月)
皆様方にも最近ロコモと云う言葉を耳にするかと思いますが、加齢に伴い心身機能の低下、特に筋肉、骨、関節の部位に何らかの支障を来し運動障害が起きている状態をロコモティブシンドローム(ロコモ)と呼びます。歩行障害や転倒により、要介護や寝たきりの原因にもなるため、整形外科学会でもその予防に力を入れて取り組んでいます。
皆さんもよくご存じである骨粗鬆症はロコモの原因になります。私が整形外科医になった頃骨粗鬆症は年を取れば誰でもなるものとされ、積極的には治療されませんでした。
今日の様に良い治療薬が開発されていなかった事情もあります。現在では主に骨破壊を抑える薬や骨形成を促進する薬など、多くの内服薬、注射薬が開発されており、その選択に迷うほどです。
一方で、サルコペニアと云う言葉はあまり耳にした事は無いと思います。ラテン語でサルコは筋肉、ペニアは減少を意味し、筋肉量の減少症を言います。原因はまだはっきりしていませんが、一部の病気によるものを除き、殆どは加齢に伴う筋力低下及び筋肉量の減少です。人間には個人差はありますが40歳頃から筋肉量が減少しはじめ、高齢者では1年で5%も減少すると言われています。減少が進むと、ロコモの原因となり歩行障害、転倒を引き起こします。
一般的にはまだはっきりした診断基準は有りませんが、骨粗鬆症の診断に用いるDXAという装置で筋肉量を測定して評価する方法があります。
自分がサルコペニアかどうかの目安として、歩行速度1m/秒未満、握力男性25㎏、女性20㎏以下ならば要注意と判断してください。
その予防と対策についてですが、現在のところまだ有効な薬はありません。
ビタミンD、プロテインサプリメントに効果があるという説もありますが、やはり運動が最も効果的と思われます。開眼片脚立ちやスクワット等のロコモ体操もありますが、もう少し負荷の強い運動が良いのではないでしょうか。今までは、高齢者のマシーントレーニングは危険で効果がないと推奨されておりませんでした。
しかし最近では、正しい指導下でのマシーントレーニングにより、筋肉量が増加し筋力も高まる有意義なトレーニングであると考えが変わって来ました。整形外科医や内科の先生のメディカルチェックを受け、運動に制限がないと判断された人は是非トレーニングを行って筋肉をつけ、健康寿命を延ばしてください。
【参考文献】
サルコペニア;定義と診断に関する欧州関連学会のコンセンサスの解釈とQ&A
厚生労働科学研究補助金 高齢者における加齢性筋肉減弱減少に関する
予防対策確立のための包括研究
岡田朋彦(岡田整形外科クリニック)
第25回 「痛みとは何か? 種類と特徴について」(2016年8月)
痛みは誰もが経験しているもので、たとえば転んで怪我をした時や、風邪をひいてのどが腫れても痛いし、日本人の10人に1人は腰痛を自覚しているともいわれています。ところが「痛みとは何か?」を説明してくださいと言われると、これがとても難しいのです。
国際疼痛学会の定義では、「実際に何らかの組織損傷が起こったとき、または組織損傷を起こす可能性があるとき、あるいはそのような損傷の際に表現される、不快な感覚や不快な情動体験」ということになっています。難解な表現ですね。
簡単にいうと、病気や怪我があってもなくても、チクチクやズキズキなどの感覚に不快な感情が伴っているものが「痛み」です。
つまり「痛み」とは視覚・聴覚・触覚・味覚・嗅覚などの他の誰でも理解できる「客観的な感覚」とは違い、本人が痛いと感じればそれは「痛み」であり、かならず不安や恐怖、落ち込み、苦しみなどのネガティブな感情を伴っている、本人にしか分からない「主観的な体験」であるということです。
痛みの種類は、痛む期間(急性痛・慢性痛)と痛みの原因(侵害受容性疼痛・神経障害性疼痛)によって分類されます。
「急性痛」は怪我や手術のように、原因がはっきりしていて、傷が治るとともに痛みも消えていくもので長くても数日から数週間のものをいいます。一方、「慢性痛」は一般的に3ヵ月以上痛みが続く場合をいいます。これには関節リウマチや片頭痛、変形性関節症のように長期間にわたり病状が持続する場合や、帯状疱疹後神経痛のように病気が治った後も持続する痛み、線維筋痛症のような原因のわからない痛みに分けられます。がんによる痛みはがん性疼痛といい、慢性痛とは別に扱います。
「侵害受容性疼痛」とは痛みを感知する神経のセンサーが外力や炎症物質を感知して生じる痛みです。これは急性痛や関節リウマチなど遷延する炎症性疾患の痛みの原因になり、一般的な消炎鎮痛薬などで十分効果があります。
一方、「神経障害性疼痛」は、痛みを伝える末梢から中枢までの神経経路の損傷や変形などの障害によって生じる痛みで、帯状疱疹後神経痛や坐骨神経痛、脳卒中後の視床痛といった慢性痛の原因になります。
「神経障害性疼痛」は一般的な消炎鎮痛薬は効果がなく難治性でしたが、最近は効果のある薬剤が続々と開発されており、以前よりも治療に期待が持てるようになりました。
福田博一(福田ペインクリニック)
第24回 「~クスリはリスク~ ポリファーマシーの問題」 (2016年7月)
今回は総合診療医として診療のテーマの1つにしているポリファーマシーの問題についてです。
クスリにはメリット、デメリットが存在します。みなさまは薬の副作用に対して薬を飲んではいないでしょうか?そのようなリスクが隠れていることにお気づきでしょうか?
さて、ポリファーマシーとは様々な症状に対し、その都度色々なクスリが処方されることによって気づいてみるとたくさんのクスリを飲んでしまっている状態のことです。各専門分野の先生方により、エビデンスに基づき処方された折角の処方も飲み合わせにより結果として有害となるリスクがあるということです。
色々な先生に診察していただくことは決して悪いことではありませんが、いわゆるドクターショッピング(複数の医療機関での受診)といわれる状態になると対症療法が多くなり、きちんと病態を把握するのが困難になるためクスリの整理が必要となるのです。
これはクスリだけには限りません。健康食品などでも起こすことがあるのです。
では少しだけ具体例を挙げてみましょう!
①痛み止め(NSAIDs)
有名なところでは胃粘膜障害があります。その他体内に水分を貯めやすくする作用により、下肢の
むくみや心機能の悪い方ですと心不全を起こすこともあるのです。
②コレステロールのクスリ
決して少なくないのが、肩こりや大腿部などの筋肉痛です。
横紋筋融解症という状態にあるために起こる症状です。
③抗生物質
ウイルスには効きません。風邪などで頻回に飲むとクスリに効きにくい菌を作り、また正常な腸内
細菌を殺してしまうのです。念のため、予防のためのクスリではないので安易に使うことは決して
いいことではありません。
④利尿剤
足のむくみなどで処方されますが、高齢の方には非常に注意が必要です。足の甲だけの浮腫みに
対して使うと脱水症状をひどくさせる危険があります。ふくらはぎの筋肉がなくなることで静脈
から心臓への血液を戻しづらいだけなので利尿剤は必要ありません。
それだけではなく、骨粗しょう症や高尿酸血症なども引き起こします。
⑤健康食品類(ウコンなど)
生薬と呼ばれるものは、肝臓、腎臓、あるいは肺などでアレルギー症状を来す場合があります。
ウコンは肝臓にいいと言われておりますが、ウコンそのもので肝障害をきたすこともあるのです。
ここに挙げたのは氷山の一角に過ぎません。コレステロールが高いので②を処方、筋肉痛がでたので①を処方、むくみが出たので④を処方といったような負の連鎖が起こってしまうリスクがあるのです。勿論クスリがすべて悪いとは考えませんが、このような状態が起こらないようにするために私自身は必ずお薬手帳での他院様の処方を確認することとしております。
そして必要最小限のクスリに減薬を心がけております。知人にこのクスリが効くと言われたり、戴いたりしても絶対に医療機関への相談なく内服することだけは止めてください。総合判断ができるかかりつけ医を持つことによりこのリスクが軽減されるのです。
クスリはリスク!またポリファーマシーの問題は根深く存在することをご注意願いたいと思います。
増田雄彦(増田医院)
第23回 「過敏性腸症候群」 (2016年6月)
外来診療でよく見られる疾患であり、症状も軽度~重度まであります。
この病気は、腹痛と便通異常(便秘、下痢、もしくはその交互)が関連し合いながら慢性に持続し、
かつ〈通常の臨床検査では〉愁訴の原因となる器質的疾患を認めないという概念の症候群である。
診断基準(RomeⅢ)は、腹痛あるいは腹部不快感が、最近3カ月の間に1カ月あたり3日以上にわたって生じ
1:排便により症状が改善する。
2:発症時に排便頻度の変化がある。
3:発症時に便の形状(外観)の変化がある。
上記の2つ以上の症状をともなうものである。
過敏性腸症候群の病因はいまだ完全には解明されていない。消化管運動機能異常と内臓知覚過敏が認められる。
更に、心理的ストレスが消化器症状を増悪させ、不安や抑うつ状態を認める症例も多いこれらの事実は過敏性腸症候群の病態の中核に中枢神経系と消化器機能の深い機能連関、いわゆる「脳腸相関」が重要な役割を担っていることを示している。
脳による胃腸機能調節に問題があっても、胃腸からの内臓知覚を脳へ伝達する経路に問題があっても、この病気はおこりうると考えられる。重要なことは、腹部症状の原因は胃腸を含めた消化器臓器そのものにしか原因はないと決めつけない事である。
治療としては、以上のような病態を患者に十分説明し、良好な患者-医師関係を作ることが重要である。具体的治療として、食事療法と薬物療法がある。
食事療法として炭水化物もしくは脂質が多い食事、香辛料、アルコール、コーヒーをひかえる。
低 FODMAP(発酵生のオリゴ糖、2糖類、ポリオール)食の有効性が報告されている。
薬物療法としてプロバイオティクス(腸内細菌のバランスを改善するビフィズス菌や乳酸菌などの生菌、またはそれらを含む薬品や食品自体)、高分子重合体、消化管機能調整薬等がある。
しかし、対症療法的な薬だけでなく必要ならば抗不安薬、抗うつ薬を処方して精神的苦痛を和らげる治療も考慮したい。
阿部弘幸(阿部医院)
第22回 「メディア時代の子どもたち」 (2016年5月)
テレビが各家庭に行き渡ったのが昭和45年頃。以降、家庭用ゲーム機、ビデオ、パソコン、携帯電話、スマホと、メディア(電子媒体)は一気に進歩し、いつでもどこでも四角い画面を見つめる時代になりました。メディア時代です。逆に元気に外で走り回る子どもは減りました。メディアは便利な反面、子どもたちにさまざまな弊害をもたらしています。
①体力低下。
子どもたちの歩数が明らかに減少しています。足腰が弱り、簡単に転ぶ子どもたちが増えました。
②視力低下、立体視・動体視への影響。
近くの平面ばかりをみているから目が育ちません。高校生の裸眼視力1.0未満の割合は2/3です。
③学力低下。
メディア接触時間と相関するようです。読み書きよりも、指先だけのタッチというのも影響あるでしょう。
④こころの問題。
ネット社会にのめり込み、孤独感、対人関係の希薄さが生じています。ほかにも、生活リズムの乱れ、
ネットいじめや犯罪被害、ながらスマホによる交通事故など、いろいろな影響が言われています。
厚労省調査では、中高生の約8%、52万人がメディア依存状態とのこと。
タバコやアルコールと同様、メディアも止められなくなるのです。
「子どもとメディア」は、各家庭ではもちろん、学校でも、そして社会全体でもしっかりと考えていくべき課題ではないでしょうか。
小柳富彦(こやなぎ小児科)
第21回 「職場のメンタルヘルスとストレスチェック」 (2016年4月)
平成27年12月より職員が50人以上の会社でストレスチェックの施行が義務化されました。
すでにストレスチェックを受けられた方もいらっしゃると思います。
ストレスチェックは「職業性ストレス簡易調査票(57項目)」という職場のストレスに関する質問票に答えることで、どの程度のストレス状態であるかを点数化して評価するものです。
厚生労働省が作っている「こころの耳」というホームページの「5分でできる職場のストレスセルフチェック」で同じものを体験することができます。
(URLはこちらです http://kokoro.mhlw.go.jp/)。
ストレスチェックで高い点数になると「高ストレス者」となります。高ストレス者は、医師による面接指導を勧められます。面接指導では実際の職場のストレス状況や心理的・身体的なストレスの影響について聴取されます。それにより職場での就業上の措置(時間外労働の禁止など)や職場環境の改善についての意見書が作成され、会社に提出されます。また、うつ病などが疑われる場合は受信を勧められ、医療機関の紹介を受けることもできます。
以上がストレスチェックの概要となりますが、あくまでも「高ストレス者」を見つけ出すもので、うつ病などを直接診断するものではありません。上手に利用して職場のメンタルヘルスの向上やうつ病などの予防にお役立てください。
柴田 信義(柴田メンタルクリニック)